ウィーンはオーストリアという中欧の国の首都です。なんて書くとそんなこと知ってるよ!とおっしゃる方がいらっしゃるかもしれませんが、オーストリアという国の知名度は驚くほど低いです。
ウィーンという名は音楽の街ということでよく知られておりますけどね。
そんなオーストリアの公用語はドイツ語です。
当然ながらドイツ語で仕事しております。(そしてドイツ語で仕事していると言うと、ドイツに住んでいるとよく勘違いされます。)
ドイツ語を公用語としている国は比較的少ないですが、日本人は意外と馴染みがあるように思ってしまう言語ではないかと思います。
特に医学の世界では、ドイツ語は少し昔まではラテン語と並んで、おそらく英語以上に浸透していたことがあるのではないでしょうか。
学生時代の授業で、ドイツ語やラテン語の医学単語を使用されていた教授がいくらかいらしたのはまだ記憶にあります。
私が研修医をしていたときも、おかしな医学界スラングが飛び交っていたのを覚えております。
ドイツ語を学んでから、あ〜!あのへんなスラング、ドイツ語だったんだ〜!というものがいくつもあるので、一部紹介させていただきます。
呼び名: ごぷろつっかー
書き方: 5%ツッカー
語源 : Zucker
これは今でも私がニヤリと笑ってしまう単語です。
点滴に使用する5%ブドウ糖液のことです。
5だけが日本語読みなのがミソですね。
%はドイツ語読みでプロツェント、ツッカーは"Zucker"=砂糖です。
よく救急外来で「ごぶろつっかーつないで〜!」なんて叫ばれたりします。
呼び名: しゃーかすてん
書き方: シャーカステン
語源 : Schaukasten
こちらでオーストリア人医師と結婚されている日本人の女医さんとおしゃべりしていて初めてこれがドイツ語だと認識しました。
正しくは"Schaukasten"(シャウカステン)。
Shauen=見る、Kasten=箱
レントゲン写真を引っ掛けて、後ろから照らして見るための、蛍光灯が入った箱です。
レントゲン画像をコンピュータで見るようになった今でも、古い診察室の壁にくっついているのを見かけますね。
その日本人の女医さんがこちらへいらして間もなく、旦那さんの友達相手にネタとして使っていたそうです。
「ハイ、妻がドイツ語を話します!」
「いきます!
(壁を指さしておもむろに)
・・シャウカステン・・・」
かなり爆笑されたとのことですので、ウィーンの病院を見学される際に是非言ってみてください。
呼び名: ぜく
書き方: ゼク
語源 : Sektion
日本の病院では亡くなった方の病理解剖を行う際、よく「ゼクってね」、と言われますが、語源はsektion=切開するです。
しかし、ウィーンの病院でSektio(ゼクツィオ)と言えば、帝王切開のことになります。
病理解剖はObduktion(オブドゥクツィオン)です。
どうぞお気をつけを。
呼び方: すてった
書き方: ステった
語源 : Sterben
「今朝俺の患者がステっちゃって、ちょっと落ち込んでるんだよね〜」
なんて会話が病院で話されるときは、どなたかがお亡くなりになったということです。
「すてった」は決して「捨てった」ということではありません。
ドイツ語のSterben(シュテルベン)=死ぬ、を日本語の動詞化したのですね。
実際の発音はシュテルベンなので本来は「しゅてった」が正しいのでしょうけれど、これでは響きになんだか締まりがありませんよね。
呼び方: あぽった
書き方: アポった
語源 : Apoplexie
他の病気で入院されている方が、入院中に脳梗塞を合併することは残念ながらたびたび見られます。
Apoplexie(アポプレクシー)は脳卒中を意味するドイツ語の名詞です。
私が日本で研修をしていた頃、アポったとステったの意味の違いを知らず、アポった=亡くなるということだと勘違いしておりました。
どこぞの教団が「ポアする」、なんて言葉を使用していたのがまだ記憶に新しい時代でしたので。
呼び方: えっせん
書き方: エッセン
語源 : Essen
文字も発音もそのまま、Essen=食べる/食べ物です。
医師間では「エッセン行くぞ!」=「飯行くぞ!」という、ふと聞くと動詞を名詞化しているのかな?と思う不思議な言い方をされますが、ドイツ語でもそのまんま"Gehen wir Essen!"と言うので、実は文法的にも正しかったりするのです。
ドイツ語の単語が日本の医学界に浸透しているのは、明治時代に日本が西洋医学の知識を輸入した際、窓口がシーボルトなどのドイツ人が多かったからではないかと私は想像するのですが、事実はいかがなものなのでしょうか。
もしご存知の方がいらっしゃれば是非ご教授いただきたいものです。
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